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ATF6 エスコートタンパク質の発見!?
今年になって ATF6 ノックアウトマウスを使った共同研究として5編の論文が公開されましたので発表論文欄を更新しました。特筆すべきはシンシナチ大学のグループによる Cell の論文です。
ATF6 は吉田さんが one-hybrid 法を使ってクローニングした哺乳動物UPRに特異的な転写因子で、土師さんが小胞体膜貫通型タンパク質として合成され、プロテオリシスにより活性化されることを見つけました。この1999年の論文はMBC史上最多引用文献の1つということで、MBCの編集長が交替したときに回顧録の執筆を依頼され、書いたのが「Retrospective - Divest yourself of a preconceived idea: Transcription factor ATF6 is not a soluble protein!」です。翌2000年冬にはノーベル賞受賞者の Brown & Goldstein により、ATF6 も彼が提唱する Regulated Intramembrane Proteolysis の基質であると Cell の総説に記述され、その年の夏には SREBP も ATF6 も同じプロテアーゼ(ゴルジ体に存在する S1P とS2P)により切断されることが報告されました。すなわち ATF6 は小胞体からゴルジ体へ旅して切断され活性化されるのです。
以来、小胞体ストレス時に ATF6 を小胞体からゴルジ体へエスコートするタンパク質を10年以上も追い求めて来ました。安達君、佐藤さん、奥上君、卒研時の石川君、今田さんが懸命に探してくれたのですが、とれませんでした。そのエスコートタンパク質が、心筋細胞の研究をしている医学者 Molkentin らにより、細胞外マトリクスタンパク質である thrombospondin として同定されたのです。詰めの実験に ATF6 ノックアウト細胞を提供したので共同研究となったのですが、嬉しいやら悔しいやら心境は複雑です。
ただし、心筋細胞では thrombospondin が ATF6 をエスコートするのは確かなようなのですが(thrombospondin が5種類存在するので、ノックアウト細胞を用いた証明はできていません)、他の細胞ではどうなのか、今卒研生の古場君が調べてくれています。まだ、全て解決とはならないようです。